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水への想い (2006/12/22)
鼎談/東京の下水道、これまでとこれから
タレント 江戸家小猫 氏
日本水フォーラム事務局長 尾田 栄章 氏
前東京都下水道局長 二村 保宏 氏
 東京の下水道は、その出発点となるレンガ積み暗きょの「神田下水」建設から121年が経過する。その間、下水道の技術は飛躍的な発展を遂げるとともに普及率も向上し、都民の生活基盤として安全で快適な暮らしを支えてきた。しかし、もはや下水道が当たり前となり、下水道が果たす役割の重要性が見えにくくなってきた。他方、東京23区は100%普及概成となったものの、都市型水害への対応、老朽化への対策、合流式下水道の改善、快適な水環境の形成などまだまだ課題が山積している。そしてこれらの事業展開は、都民の理解なくしては考えられなくなりつつある。そこで、東京都下水道局長の二村保宏氏(鼎談当時)を司会役とし、下水道展へのイベント出演などで下水道界にもお馴染みのタレント江戸家小猫氏、「打ち水大作戦」の火つけ役となったNPO法人日本水フォーラム事務局長の尾田栄章氏の3氏により、東京の下水道がどういう存在であったのか、また東京の下水道は今後どうあらねばならないのか、鼎談していただいた。なおこの鼎談は、6月14日に行われたものである。


江戸家小猫(えどや こねこ、本名=岡田 八郎)

1949年生まれ、東京都出身。
68年父である三代目江戸家猫八に入門。多彩なものまね芸と清潔感のあるイメージで人気を博し、テレビ番組の司会、講演活動、寄席などで活躍中。81年放送演芸大賞、90年ベストファーザー賞、2004年文化庁芸術祭優秀賞など受賞多数。96年からは「いきいき下水道賞」の選考委員を務めるとともに、「いきいき下水道フェスティバル」の司会を担当。97年から2004年までは名古屋市の「洋上下水道教室」で講師役、99年からイベント出演している下水道展で子ども向け下水道教室の学園長を務めている。
尾田 栄章(おだ ひであき)

1941年生まれ、奈良県出身。
67年京都大学大学院工学科修了。同年建設省入省。90年東北地建企画部長、91年建設経済局国際課長、93年河川局河川計画課長、94年大臣官房技術審議官、95年中部地建局長、96年河川局長、97年河川局長として「河川法の目的に河川環境の整備と保全」を加える、「計画策定に住民の意見を反映」させる等の河川法改正に当たる。98年退職。2000年第3回世界水フォーラム事務局の事務局長をボランティアとして務める。03年ヒートアイランド現象解決に市民の発想を取り入れつつ始まった「大江戸打ち水大作戦」の作戦本部長も務める。04年より日本水フォーラム事務局長をボランティアとして務めている。
二村 保宏(にむら やすひろ)

1945年生まれ、愛知県出身。
69年入都、福祉局高齢福祉部計画課長、同総務部計画調整課長など福祉の事務畑を歩んだ後、96年特別区人事厚生事務組合厚生部長、99年政策報道室首都機能調査担当部長、2000年都立大学事務局次長、01年大学管理本部管理部長、02年下水道局次長、03年下水道局長。
下水道は真面目なお父さん

二村 最初に、下水道のイメージ、とりわけ東京の下水道についての率直な感想をお聞かせ願えればと思います。

小猫 一口で言えば「大船に乗った気持ち」という言葉がありますが、それですね。やはり我々は安心しています。本当にこれだけのたくさんの方が住んでいる中で、僕たちが何の不自由もなくトイレを使い、風呂に入り、手を洗ったり、とにかくいろいろなことをしていて何の支障もないです。それは小さなトラブルはありますよ。でもそれ以外は、とにかく我々が日常生活の中で何の不自由もしたことがなく、使った水を速やかに排除していってくれる。そしてきれいにしてくれる。
 またもう一つの問題である、大雨が降っても、何の洪水があるわけでもなく、安心して住んでいられる。まず安心感があって、すごく頼りになる。ただ問題なのは、それが当たり前になっている。
 言ってみれば、非常に真面目に一生懸命働いているお父さんみたいな感じですね。家族っていうのは、毎日、一生懸命働いているお父さんって、こんなありがたいことはないのだけれど、当たり前になってしまいますと、感謝の念が薄れていってしまうんです。「お父さん、いつもお仕事ありがとう」とすき焼きを出してくれないんです。
 ところがあまり優秀ではないお父さんは遊び歩いていて、そういうお父さんが何を思ったか、突然一生懸命働き出したりすると、家族は「お父さん、ありがとう。今までちっとも働かなかったのに、ここのところずっと一生懸命やってくれて嬉しい」と言って、そういうお父さんにはすき焼きが出るんですね(笑)。
 真面目なお父さんは、それくらいのことは毎日やってきたんです。もうちょっと下水道に対して、皆がもう少し日々の意識の中に「ありがたい。こういうふうにあるからこそ、僕らはこういうふうに楽になり、普通に生活できる」ということを思ってもらえればと感じます。

二村 それは大変ありがたく心強い話です。尾田さんはどうですか。

尾田 今たまたま私が住んでいるところの周りで、下水管の補修工事をしています。老朽化したものを掘り返すのではなく、ロボットを使ってやっています。「私にも見せてよ」と言って見せてもらったのですが、モニターを見ながらロボットを操作してるんですね。そのとき、地下空間にこういう施設が張り巡らされているんだあと実感しました。だから先ほど小猫さんが言われた安全が、地下に張り巡らされた下水道網で確保されているのですが、我々はそういうことでもないと気がつかないですね。
 考えてみれば、第二次世界大戦後ここ数十年の間でこういうかたちの整備がされてきたわけですが、そういうことをあまりにも知らなさ過ぎますね。大きな問題点だと思います。だからこういう機会を持たれたのだと思いますが、おっしゃったように、あまりにも健康でちゃんと働いているお父さんなので、人から注目されないところがありますね。

小猫 真面目なお父さんだって、病気になったり、怪我をして入院すると、そのときにわかるんですよね。「ああ、お父さんが今まで働いてくれたお陰でありがたかったんだ」ってね。だけど入院したり、病気になってからでは間に合わないですから、下水道の場合も健康に元気に働いているうちにわかってくれないと。


見えない下水道をどう見てもらうか

二村 私どもの仕事は、病気になるわけにはいきません(笑)。
 よく言われるように、人間の体で例えると、水道が動脈だとすると、下水道は静脈だと言いますが、両方がうまく機能しないと健全な体を維持できないわけです。特に水道の場合は、断水ということがありますが、下水道は止めることができません。24時間、365日絶えず流し続けるものですから、地震等で止まってしまったら、この下水処理をどうするかという問題が発生します。
 そういう点では水道はどこかでバルブを閉めればいいのですが、下水道は止めることができません。まさに1年間を通して都市活動を支えているということになります。

尾田 阪神・淡路大震災のときは、下水道もめちゃくちゃになって、トイレの排水を使わないようにしましたね。

小猫 ガスや水道は止めるということで、しばらく復旧まで待つわけですが、下水の場合はどうしようもない。使えないわけだから。だから簡易トイレとか、いろいろなことを駆使しながら大変だったでしょう。

二村 汚水を流すことができないことから、臭気がひどかったそうです。

小猫 新潟県中越地震のときもそうでしたが、災害はあってはいけないことだし、また受けられた方は大変お気の毒だと思うのですが、災害に遭ったときにせめて得ることがあるとすれば、そういうときに皆が不便さを知るとか、学習をするということでしょうか。

二村 下水道は、地下に網の目のように張り巡らされていまして、細い管は25pくらいから、大きいもので8.5mにもなります。全部合わせると23区だけで、およそ1万5,500qになり、イメージとしましては、東京からオーストラリアのシドニーまでを往復した距離になります。下水道管きょは、地下に埋設されていますので、目に見えませんから、どういうかたちで都民の方々に見せていくかということが問題となります。

小猫 そうですね。僕の立場から言えば、下水道展です。そういう機会に、いわゆる下水道というものに目を向けていただく。皆さんの身の回りには、下水道という非常に素晴らしいものがあるということを知ってもらう。でもそれだけではちょっと物足りない。
 ではどうしたらいいのだろうということで、そのイベントの中に下水道を知るような、ちょっと工夫された、例えば同じクイズを出すのなら、下水道に関するクイズを出すとかする。それから下水道の動きがわかるようなコーナーがあって、そこを子どもたちが見て回るとか、下水道にちゃんと付随した内容のあるイベントを目指してきたんです。
 昨年、横浜でやったときは、イベント広場そのものが下水道にかかわる、全国の下水道のことや、なぜ水はきれいになるのかというのを子どもたちが見たり、実際に参加してクイズにチャレンジしたり、それにかかわるゲームをやったりと、下水道一色なんです。
 僕も、当初は動物の鳴き真似などをやらせてもらっていましたが、昨年から下水道教室というのを開くようになりました。私はそこの学園長になり、子どもたちに勉強させて、卒業証書を渡すんです。すると皆、一生懸命参加してくれて、下水道のことを勉強してくれる。こういうかかわり方が、とりあえず一般の方たちに下水道を知ってもらうためには、とてもいい玄関ではないかと思っています。

尾田 そういうイベントは非常に大切ですが、一方、日常的に下水道の施設を開放して一般の人に見てもらうことも大事なことだと思います。例えばパリの下水道博物館は下水道施設の中にあります。あれはジャン・バルジャンが走った下水道で、その地下空間を博物館に利用しているのです。
 管理・運営は下水道に携わってる専門職能集団がやっているんですが、切符の販売から案内まで全部しています。パリ市民に下水道を知ってもらうのにものすごくに役に立っています。
 同じように、東京都の下水道施設の地下空間も、ものすごく面白いと思うのです。例えば渋谷川も渋谷の駅から上流は下水道になっていて、渋谷の駅のところで初めて顔を出し、渋谷川という川になっています。ああいうところから潜ることもできるし、キャット・ストリートと呼ばれて若者に人気の通りは昔の渋谷川です。通りの下には昔のままに川が流れており、その地下も当然歩けるはずです。そういうところの見学会などをやったら、応募者が山ほど来ると思います。

二村 見える下水道をどうつくっていくのか、普段、日常的に水が流れていますので、どうやって見せたらいいか工夫が必要となります。例えば管きょの一部分だけをアクリル管にし、実際に流れている下水を見てもらうことも考えられます。地下に埋設されている管きょの状況や下水道の役割を見えるようにして、どこかで一部露出できないかと思っています。

尾田 一つありうるとすれば、音を聞かせることができますね。今でもマンホールのところで耳をすませると水の流れる音が聞こえます。大勢の人が慌ただしく行き交う都会で、下の下水管を流れる水の音に耳をそばだてるなんて、ものすごく面白いのではないかと思います。

小猫 博物館や勉強する施設、広場でもいいですが、日常の中で、日々何か皆が忘れないようにするようなものがあったらいいですね。

尾田 今までは人口がずっと増加していくことを前提にいろいろなことを考えてきましたが、これからは人口が減少するかどうかはともかく、少なくとも静止人口になります。当然、土地の利用の仕方にものすごく余裕が出てくるはずです。そうなったときに、何を考えるか。
 例えば渋谷川を例にとると、新宿御苑から流れ出し、国立競技場の前を通って、渋谷駅前でやっと顔を出し、天現寺を下っていくのですが、渋谷の駅から上流部は蓋をされてしまっています。都市を潤す川であるはずなのに、こんなことでいいのかどうか。
 川に蓋をする前はもっと水が流れていたのに今は水がない。これは全部コンクリートで覆ってしまったから、雨水が地面から染み込まず、当然川にも入らず、コンクリートの上を流れて海へ行ってしまうからです。それなら我々の住まい方として、屋根に降った雨は地下に入れるようにしようとか考えるでしょう。川の水が汚いとすれば、自分の水の使い方も考えるでしょう。蓋をして見えなくしてしまったことで、すべておかしくなっているわけです。ぜひもう一度見えるようにしたいですね。
 それを変えうるのは下水道であり、川であり、道路です。誰がやってもいいし、皆が力を合わせてやるべきことです。誰か一人の責任に押し付けることではありません。

小猫 お話を伺っていると、段階がありますね。過去を責めることを考えるよりも、あるときは戻すことも必要だと思います。戻すためには、たしかに大変な尽力もいるだろうし、お金もかかるでしょう。でもそれが必要だとすれば、勇気を持ってやるべきですね。


僕たちは自然が故郷の生き物

二村 戦前は、降った雨のおよそ50%が地中に浸透していました。今は地中に浸透するのはおよそ20%に過ぎません。アスファルト舗装で地表が覆われ、人口が密集して空き地だったところに家屋が建てられるなど、市街地化が進んでいったため、降った雨が地表を走っていくこととなりました。当時に比べると、およそ1.6倍の雨が地表を流れていきますから、それを受け止めるものが必要となります。
 そのために、東京都では神田川のように、地下に大規模な地下調整池の整備を進めています。下水道局でも雨水調整池などを整備し、そのような施設に雨水を一時的に貯めて、雨が引いたら、ポンプアップして水再生センター送水しています。雨水の対策ができてきますと、以前蓋をした河川の役割が変わってきますので、もう一度原点に戻って見つめ直すことが可能になってきます。

小猫 過去があっての今ですからね。考えてみたら、大昔に戻ったら垂れ流しというか、川に下水の水がドボドボ流れていた時代があったわけです。そういう時代を経て、その水をきれいにしたり、いろいろなことから雨水対策もされたりしてきた。いちばん取り残されてきたのが景観というか、見ての美しさと昔ながらの水と接するところなんです。生活がいちばんでしたから、それがいちばん後回しにされるのも無理はなかったですが、おっしゃるように今はできる時代になってきたわけですからね。

尾田 これからの世紀で大切なのは、知的労働というか、感性を大事にした仕事になります。そうなったときに、大都市自体がみずみずしい感性を持ったまちでないと、我々の感性がひらめいてきません。そういう都市にどう変えていくかというのは、これから日本にとってものすごく大事です。世界全体が今そういう都市を目指して動いています。
 例えばパリなどではセーヌ川の横に自動車の専用道路がありますが、これを夏の間止めて、砂を持ってきて砂浜をつくり、椰子を置いて海岸をつくり出しています。自動車専用道路を止めて、人工海浜にしているんです。パリ・プラージュというのですが、これはセーヌ川の水があって初めて成り立つことです。素敵な感性を持った町にどう変えていくかというときに、水と緑の空間はとても重要です。都市をどう変えるか、水を扱っている部署が一丸となって取り組んで、感性のある都市に変えないとだめだと思います。

二村 生活の質、クオリティ・オブ・ライフの関係もありますが、人間にとって、水と緑がいちばん安らぎをもたらす感じがします。

小猫 それはやはり僕たちも動物だからだと思いますね。動物であることを忘れて、ときどき単なる機械のパートナーみたいになってしまうとよくない。おっしゃるように水と緑=自然で、その中でなぜ安らぐのかというと、やはりそれは自然が故郷の生き物だからです。
 自然の中にいる動物、鳥たちの声が聞こえてこないと、私も困ることになります。カエルを鳴いても、子どもたちにカエルの鳴き声を知らないと言われたら困ってしまうじゃないですか(笑)。農家の庭先や田舎のおばあちゃんのところでニワトリが鳴いているから、僕のニワトリを聞いて「あっニワトリだ」と言ってくれるんです。今は下手をしたら僕が鳴くニワトリの声が初めてだという子もいますからね(笑)。

尾田 小猫さんの物真似を聞かせていただいて、やはり我々はまさに自然を感じています。自然と呼応しながら、聞かせてもらっているんですね。

小猫 そうかもしれないですね。最近やっていて感じるのは、皆さんは何かホッとしているんです。ウグイスを一声鳴くと、まずうまいなという反応で、自分でこんなことを言ってはいけませんが(笑)、喜んでくださる。もう一つは「ああ、そうだ。山で鳴くウグイスの声だ」ということで、すごくホッとしてくれるんですね。


再生水は都会の湧き水

二村 都市の中で、自然を感じられることが必要ですね。それをどのように多くつくっていけるかという話です。先ほどのパリのセーヌ川の話が出ましたが、東京には隅田川や多摩川があります。都市の中の風情ある川として再生しなければだめですね。今までは川が悪臭を放っていたり、汚かったために、マンションなどは川に背を向けて建てられるということがありました。最近、目黒川では、再生水を放流することにより水質が向上してきました。このため、川に向いてマンションが建つようになってきています。また、大崎地区では、まちづくりと連携した取組みとして、目黒川に架かる御成橋から河川に向けて噴水として再生水を利用しています。地域の方々や現地訪れた方々の反応も上々で、新名所として地域の活性化に貢献することができました。このような都市の中の環境形成が、これからの私どもの役割かと思います。

尾田 もともと水は一つで、同じ水なんです。太平洋とか大西洋とか海は全部つながっていて、そこにすべての川が入っているわけですから、まさに一つなんです。大きな循環をしている水です。それを都市の中でどう再生するかが問われているのです。

小猫 すごくいいことを考えちゃいました。今日この場で発表します。「再生水は都会の湧き水」。いいでしょう。まさに山に湧き水があるように、都会では再生水がきれいな水を湧き出して、その湧き水を流し、昔のような川の清い流れにします。再生水は都会の湧き水です。

尾田 イメージとしてはものすごくよくわかるのですが、一つ注意しておきたいのは、山の湧き水は自然に湧き出します。しかし下水の処理水の再生水は、つくり出すためにお金とエネルギーをかけているんです。ということは、そのエネルギーを生み出すために原子力にしろ、石炭を焚くにしろ、水力にしろ、ある意味では大気環境を悪くしているんですね。常に我々はプラスとマイナスの狭間で生きています。  都会の湧き水をつくり出すためには、そういう負の側面も持っているということを十分に自覚しなければなりません。そういう意味で、川の水が豊かにあるときには自然の湧き水を使い、ないときには都市の人口の湧き水を使う。そのようにトータルとして考える。エネルギーの問題までひっくるめて考えておくことが必要だと思います。しかし、ものすごくいい言葉ですね。

小猫 たぶん僕の言った「湧き水だ」という気持ちを持つことと、今おっしゃったことと、これをきちんとわきまえないといけないのでしょうね。


エネルギー消費まで視野に入れた循環利用

二村 落合水再生センターで再生水をさらに膜ろ過して、わずかですが飲めるくらいまできれいにしています。ここに整備したせせらぎの里は子どもたちが水遊びし、再生水が誤って体の中に入っても病気にならないようにきれいな水にしています。この再生水を供給するには、非常にコストがかかりますので供給能力はわずかなものとなっています。  汚水を水処理するためには膨大な電力を消費します。下水道局だけで都内の電気消費量の約1%を使っています。年間、電気代だけでおよそ110億円支出していますが、この費用の削減が課題となります。技術開発をして、電気消費量を少なくして、水処理を効率的に行う方法を考えなければいけないでしょう。
 もう一つは、今、川や海に流している放流水に、もっとお金をかけてもいいから、もっときれいにしてほしいという都民の方々の要求が高まれば、水処理にお金をかけていくことができます。
 コスト削減と都民の方々のニーズ、両方が相まって水質を向上させていくことになるのではないかと思います。

尾田 「打ち水大作戦」というのに私はかかわっています。打ち水大作戦の唯一あるルールは、まっさらな水は使わない。水道水は使わない。そのままだと下水に流れていく水を使いましょう。そうすれば家庭の中で何回も水を循環させようという考えに行き着きます。昔は、それこそお勝手で使った水で廊下の拭き掃除をして、そのどろどろに汚れた水で打ち水にしていたのですね。家庭の中で水を循環使用するということをもう一度考えるということにもなります。
 それから自分が流した水がどうなるかを意識することにもつながります。家庭で使った水は下水に流れていって、下水処理場に大きな負荷をかけているのです。それを「打ち水」に使えば、そのまま蒸発散して大気に戻るわけで、下水道の負荷を下げることにもなります。なおかつ、都市のヒートアイランド現象の緩和にもなる。さらには、地球温暖化の緩和にもつながるのではないか。そういったいろいろな意味を持つということで、「打ち水」に携わっているわけです。
 そういう中で、下水の再生水に大活躍してもらっています。下水の再生水が打ち水に使える。匂いもしないということを、皆に知ってもらうのに非常にいい機会ですね。

二村 尾田さんから協力依頼があって、再生水のPRのいい機会になっています。

小猫 まだ臭いと思っている人がいます。それからイメージ的に、再生水といっても、あたかも汚い水がそのままUターンしてきたように思っている方が、残念ながらまだ多い。今、どのくらいきれいにしているかを皆さんに知ってもらうために、これからどうしたらいいかということにかかっているでしょう。
 それと、よりきれいにしていく努力をしていただくということですね。しかも、経費がかかったり、大気が汚れるようなことがあったりということを抑えていくような、さらに欲張った研究をしていかなければいけない。

二村 私どもが反省しなければいけないのは、自分たちの仕事がどうしても自己完結してしまっていることです。下水処理は水をきれいにする一方で環境に負荷をかけています。多額の電気代を支出するということは、当然、多量の化石燃料を消費していることになります。水をきれいにすることとトレードオフの関係で、大気を汚していると言えるわけです。そのことを下水道料金を払っている方々に十分理解してもらうという努力を、私どもがこれまでしてこなかったところがあります。地球温暖化防止に対する計画を策定するなど、地球環境に貢献する姿勢を打ち出していますので、このような取組みをもっと見せていかなければならないと思います。
尾田 いろいろなところとつながっていくのに、下水の枠だけで捉えているところがありますね。例えば「打ち水大作戦」に関して申しますと、再生水を提供いただくのは大変ありがたいのですが、下水処理場に取りに来いと言われたら大変なんです。特別の運搬車をお持ちの下水道サイドで打ち水の現場まで運んでもらうと、ものすごく使い勝手のいい水になります。
 打ち水が生活習慣として馴染むようになると、再生水を町々の拠点に配置してもらって、それを使って打ち水をする。風呂の残り水とかを使える人はそれを使い、できない人は再生水を使う。町のいろんな拠点ごとに配置されていけば、それも可能ですよね。そういう都市ができても面白い。再生水をそういうかたちで配給するということも、下水道本来の仕事だと考えていただけると嬉しいですね。

二村 今は打ち水の習慣が廃れてしまったのですね。昔はどぶ川があって、そこから柄杓で打ち水をやっていたものではないですか。

尾田 臭い水を平気で撒いていました。

小猫 下町では使った水を上手に使ってましたね。でも僕が子どもの頃だから、もう今から40年以上前かな。

二村 そうでしょう。僕も小さい頃、結構やっていました。

小猫 水を撒くとパッと湯気が昇って気持ちいいんです。

尾田 すると風が起こります。やってみると、子どものときの水遊び感覚が戻るんです。楽しいですよ。記憶の蓋を開けて昔の楽しさを呼び起こし、打ち水を生活習慣になるまでにしよう。さらにそれを海外にも普及しようとやっています。

二村 打ち水をすると気温が1度か2度くらい下がると言われています。

小猫 皆でやったらずいぶん違うでしょうね。

尾田 東京中でやれば2度は下がります。2度下がるというのはすごいですからね。

小猫 大きいですね。京都議定書でいう森の問題もありますが、水を撒くことによって森林を少し手伝ってあげることもできるかもしれない。森だけに負担させたらかわいそうです。木がヒーヒー言ってしまいます。それなら水を撒く。
 再生水は打ち水だけに限らず、僕が知っている限りではいろいろな車両を洗う水、バスを洗ったりトイレを流す水に使う。これはもっともっと広めていただきたいと思います。

二村 ビルのトイレ用水ですが、これは水道水と再生水の両方の配管が必要となります。このため新しく建物をつくるときでないと対応が難しいものとなります。再生水を供給するエリアを指定をし、新しく建物をつくるところには、私どもも再生水の利用をお願いしています。「再生水の供給について指導しています」とは言うのですが、必ず再生水を使わなければいけないということにはなっていません。
 大きなビルですと、ビル単独で雨水や排水を循環できる装置を地下に設けているところもありますので、すべてのビルでトイレ用水に再生水を使っていただくというわけにはいきませんが、これからもっともっと再生水を使用してもらえるよう営業していかなければいけません。

尾田 循環利用はいちばん議論になったのは、昭和53年の福岡大渇水のときです。「渇水疎開」という言葉が出るくらいすごかったです。そのときに初めて、ビルの中での循環利用の議論が出ました。考えてみますと、先ほどの話のように、再生水をもう一度利用するには二重配管の問題と、維持管理のためのお金というか、エネルギーの問題があります。循環利用の宣伝効果はあるにしても本当に意味があるのかどうか。エネルギー問題と合わせてトータルとして捉える必要があります。そこのところの議論は大事だと思います。


小猫 今後、未来的にもっと雨が降らないような現象が起きて、人類が地球上で循環させるようなことが必要になってくれば、今おっしゃっているダブル配管、いわゆる使った水が静脈だけではなく動脈化して、その水で日常生活のことをするみたいな本格的な構想も必要かもしれませんが、とりあえず今の地球上の現象としては、雨も降るし、水の利用も渇水時でなければ、ある程度のことはできる中で、どこまでやる必要があるかということですね。

尾田 渇水用に装置としては持っておくけれど、日常的には使わないというやり方もあります。そういうこともひっくるめて、トータルでものを見ておくことが非常に大事だと思います。

小猫 合流式下水道の問題もあるので、貯留施設整備の計画がいろいろ進められています。その水をただ貯留するだけではなく、将来を踏まえて今後利用できるような何かを考えたうえでの設計をしておけるものでしょうか。

二村 私どもが地下に貯留しているのは、降り始めの雨水です。なぜかと言いますと、降り始めの雨はひどく汚れているからです。土砂や道路上のごみ、車のタイヤが磨耗したものなどで汚れた雨水を一時的に地下に貯めて、雨がやんだら、ポンプアップして水再生センターに送水して処理しています。このため、貯留した雨水を使うことは難しいのです。

尾田 おっしゃるとおり、降り始めの水は都市を清掃してきた水です。まさに自然のシャワーですね。それがあるからまちがきれいに保たれているとも言えます。

小猫 そのへんのことだって知らない人のほうが多いですからね。そういうことをもっともっと皆に知ってもらわないといけない。


地域の方々とのパートナーシップの確立

二村 知っていただきたいことの一つに、浸水対策が挙げられます。坂下や窪地が都内には多くあり、このようなところで強い雨が降ると浸水してしまうところがあります。最近はゲリラ的な降雨が発生しており、バケツをひっくり返したような雨が降ったときには、下水道を整備しても、雨水を呑み込めなくなってしまいます。昔であれば、一週間、10日、水浸しになっていましたが、今は下水道の整備が進んでいますので、30分か、1時間で水は引きます。数万戸が浸水すれば天災と言われますが、下水道の整備によりまだらにあちこちで数戸の被害が発生した場合は、人災と言われてしまいます。
 被害を受けた人にしてみれば、下水道は何をやっているのかという話になるわけです。ところが下水道は1時間に50oの雨が降った場合を想定して整備していますので、1時間に70o、80oといった雨が降ると、下水道の能力を超えた分は溢れてしまいます。そのことを説明しても、被害を受けた人は「わかりました」とは言ってくれません。

小猫 いわゆる不公平感を感じるわけですね。

二村 この問題を解決するために、もっと地下に調整池や大規模な貯留管をつくるということになりますと、膨大な時間と費用がかかります。それなら地域を少し土盛りする、あるいは建物を高床式にする経費を補助したほうがいいのではないかという意見も出てきています。

尾田 たしかに、一つの対策ですべてに対応しようというのは無理で、そこは面的に、ここはどうしようもないから土盛りする等という施策と組み合わせてやっていく必要があります。同じ浸水でも、市街地と農地では被害の程度は大きく違います。被害を減らすという視点で見れば、市街地ではなく農地で浸水させるほうが良いことになります。土地の利用計画と合わせて、浸水箇所を限定することも大事になります。自分のフィールドの中だけで処理するのではなく、他のいろいろな施策と組み合わせて考えるようにならないとだめだと思います。

二村 去年は台風22号、23号の上陸によりおよそ1,400戸の床上、床下浸水被害が発生しました。緊急に対応しなければなりませんので、雨水整備計画の見直しを行いましたが、浸水対策を実施していくには、管きょの整備を急いでも数年はかかります。費用も100億円単位の投資となります。今日、明日の対策としては間に合わないことになります。
 このため、浸水しやすいところでは土のうを積んでください、あるいは止水板を設置してくださいということを、私どもは地域の方々にお願いしています。
 つまり自助・共助・公助の精神を持って、まず自分でできることは自分でやっていただく。私どもももちろん努力しますが、施設を整備し効果が現れるのに時間がかかりますから、土のう積み訓練の講習会などを地域の方々と一緒にやっています。

小猫 この都会の中で、ダーッと雨が降ったときに、ひどい目に遭うこともあるでしょうけれど、それは人間の生活スタイルによる、人類の勝手なことであるということをまず自覚しなければだめです。本来、自然はそういうために、地球を与えてくれたわけではないわけです。何の災害もなく、何の不便もなくいけることが当たり前だと思っていると、自然のほうからしっぺ返しがくると思います。

尾田 そのときに大事なのは、情報提供だと思うのです。100o降ればここは浸水します。だからこういうところでの地下利用は駄目ですという情報提供をしっかりとする。そのうえで、各自がその情報を正確に判断して、そんなところには地下駐車場はつくらない。その中で、徐々にですが自己責任の部分と行政が相まって、国土の安全性を高めていくわけです。

小猫 自然といかに調和して暮らしていくかという、一人ひとりの知恵と行政の両方なのでしょうね。

尾田 地域のことを地域の人が自ら考えないといけないんです。近隣社会というか、昔のご町内です。第二次世界大戦後、町内会は相互監視のような感じで悪く思われてしまったのは残念です。そうでなくて、町内は皆一緒になって、ものを考え、自分たちの生活を守る。その良さをもう一度見直すことが大事だと思います。

二村 私どもも住民の方々を、下水道料金をいただくということだけで対局に捉えるのではなく、私どもも頑張るけれど、地域の方々も一緒になってやりましょうという良好なパートナーシップを確立していきたいですね。
 水環境を良くしていく、浸水被害をなくしていくためには、地域の皆さんの協力が必要であり、行政も地域もないような気がします。

尾田 行政というのは本来サービス業で、前垂れ精神のはずなんです。下水道で言えば、下水道料金をいただいて、我々は皆さんに成り代わって、こういう仕事をさせていただいていますという、本来は前垂れ精神のはずなんです。

二村 私どもの中に「やってやる」みたいな感じが、どこかにあるかもしれないですね。


尾田 私はもと行政にいた人間ですが、芸人の皆さん方がお持ちの「お客様は神様です。喜んでいただくことなら何でもやります」という精神を行政はなかなか持ちえませんね。

小猫 ただ寄席に来るお客様は僕たちの芸を楽しみに来てくれて、笑ってくれて、好意的ですが、一般の方の場合はそうはいかないですからね。前垂れ精神も大事なんですが、一方お客のほうが「金を払っているのだから、お前らやれ、俺は何もしないぞ」というのも困りますからね。ある程度毅然とした態度で、ピシッと「皆さんのためにやっています」という。そのことが勝手な人間を抑えているということもあるので、僕は皆様方のおやりになってきたことにむしろ賛同します。何もやらなかった庶民に対しては「お前たちは少し不精だし、何もしてないぞ」、「いいよ。やってあげるから、今の10倍下水道を払えよ」とか、言い過ぎか(笑)。そのくらいの強い姿勢もあるときは必要だと思います。


水再生センターを交流の場に

二村 私どもはやっと最近になってようやく、地域の方々に私どもの仕事に対して目を向けていただけるようになってきたと感じています。私どもは、今まで50年間使ってきた下水処理場という名称を水再生センターと名前を変えました。これは下水道の役割が多様化して広がってきたということも踏まえて変えたものです。その過程の中で、地域の方々に下水道のことを勉強していただいて、何かイベントなどがあったときに、サポーターとして私どもと一緒になって手伝っていただくということを行いました。
 また、インターネットモニターがおよそ1,000人いらっしゃいますので、そういう人たちからいろいろな意見を伺い、それを集約するなどして、できるだけ広がりを持った取組みを行っていきます。これから水再生センターを水環境の拠点にしていきたいと思っています。
 水再生センターの中で、例えば三河島や落合のように比較的古い水再生センターは街中にあり、そこには大きな樹木も育っています。最近は都市の緑がなくなってきていますので、水再生センターが緑の拠点にもなってきています。

小猫 僕はそこが人の集うところであるというところがいちばんいいところだと思うのです。交流の場ですね。お陰様で「いきいき下水道賞」という賞があり、僕はその選考委員をやらせてもらっているのですが、賞に絞るのが申し訳ないくらい、皆さん素晴らしいことをなさっているわけです。
 その中で、いつも委員全員で喜ぶのは、皆が集まってくるように努力をしていることなんです。木々を生い茂らせたり、ビオトープをつくり、水辺をつくり、あるいは憩う場所をつくって人が集まってくる。できることならもう一息踏み込んで、ティーラウンジくらいあって、ちょっとお茶を楽しめるようにしたりしてほしいですね。

尾田 おっしゃるように「交流」がキーワードだと思います。大都市には交流の場がないのです。フランスの例で恐縮なのですが、ビエーヴル川という川を一部再生しました。道路の一車線をつぶして川を再生しました。ここにどういう意味を見出しているのかと聞いたら、交流の場をつくり出しているのだ。道路だと車が行き交うだけで人の流れを分断してしまう。しかし川が再生して水辺が生まれると、そこに人が集まって交流の場ができる。それが大事なのだというのです。水再生センターの役割は、そういう意味合いをこれから強く出していってもらえるといいと思います。

二村 単に水再生センターへと名前を変えただけでは意味がありません。中身をこれからも充実させていかなければなりません。


これからの下水道

尾田 水をもっと感じさせる空間する。流すときも管路ではなしに、折角きれいな水にしたのなら、オープンで流そうということもひっくるめて、下水は管だという思い込みを変えることが必要ですね。

二村 これまできれいな水を見せ、汚い水を隠すことをしてきて、下水をあまりにも分け過ぎてしまったのですね。

小猫 目に見える下水、さっきの言葉をお借りすれば、動脈の水と静脈の水、両方の上下の水を皆で目で見て生きていこうということが将来ということでよろしいのではないでしょうか。

尾田 末端だと動脈と静脈が一緒ですものね。

小猫 そうですよ。その循環があって生きていけるのですから、本当にそうだと思います。よく自然に学べといいますが、自然のサイクルがまさにそのとおりであるように、都会の中での人間が一生懸命つくったものもやはり自然のように循環があって、そして人が集まって皆で理解し合う。そういうふうに持っていきたいですね。

二村 機能をあまりにも追求した結果、人間にとって必要な水や緑が忘れられていったのでしょうね。それをどうやって取り戻していくか、そのときに下水道の役割は非常に重要になります。私どもとしても、ますます責任の重大さを感じています。

小猫 大きいですね。ここ数年言われている環境のための水、これを打ち出していただいているのは本当に嬉しく思います。たしかに人間が使った水をきれいにする、雨水を流す等いろいろな役割がありますが、その中でできるだけ処理する水を高度にきれいにしていくことに努力していただいて、その水が自然の中に戻っていく。人間のやっているいろいろなことの中で、こんなに素晴らしいことはないと思います。まさに自然に対する恩返しができるわけですからね。

尾田 都市がいちばん乾いたときに、水がいちばん豊富にあるのは下水なんです。渇水のときには、下水にしか水がないのですから。ものすごく重大な責務をお持ちなのです。

二村 これからもそういった意を踏まえて頑張っていきたいと思っています。お忙しいところ、長時間ありがとうございました。

(月刊下水道2005年増刊号VOL.28 No.10)
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